井原市七日市町の内科・小児科・皮膚科 ほそや医院

0866-62-1373

〒715-0014
岡山県井原市七日市町102

メインメニューを開く MENU
星降る夜 - ほそや医院

 11月3日午後11時、私たち夫婦は飛鳥Ⅱのスカイデッキにいた。今日は台風24号が通過した後でしかも新月、星座の観察にはふさわしい夜だ。屋上デッキには星座の観察を希望する60人ほどの乗客がいた。船上から空を見上げると、まるでプラネタリウムと錯覚するような満点の星が夜空に輝いていた。これがカシオペヤ座こちらはみずがめ座そして、ここにあるのがこの時期に見えるのは珍しい天の川とレーザービームを指しながらの説明があった。夜空をこのように見上げたのはいつだったか。いくら思い出そうとしても思い出せなかった。星の観察が終わって我々の部屋に帰ってきたが、魅惑的な星を観察したためか興奮が冷めきらなかった。家内も同じような様子だった。部屋にあるスパークリングワインをグラスに注いでそれをもってバルコニーに出て椅子に座った。波の音と心地よい海風が興奮を沈めてくれた。
 そもそもこの旅行は2日の午後5時に博多港を出港して壱岐対馬から五島列島沖を航海し、4日の午前9時に博多港に着く、無寄港クルージングツアーだった。私がこのツアーに興味を持ったのは元来海が好きでよく海岸をドライブする趣味を持ち合わせていたので、機会があれば海上をクルージングしたらどんなにか楽しいだろうと思っていた。たまたま知り合いに声をかけてもらったので乗船することにした。いざ乗船してみると、部屋はデラックスツインルームで海上を眺めることのできるバルコニーがついていた。11デッキにはビスタラウンジが船首にあってここでは、コーヒーやソフトドリンクを楽しむことが出来る。さらに驚いたことは、世界中で活躍するダニエル・ゲーテさん率いるウイーン・フーゴ・ヴォルフ三重奏団のヴァイオリン・チェロ・ピアノが織りなすクラシック音楽を船上で聴けたことだった。私たちにとっては初めての経験なので欣喜雀躍してしまった。
 ところで、私たち夫婦は最近、映画星守る犬を見る機会があった。この映画はとにかく泣けると話題を呼んだ村上たかしの大ヒット漫画を映画化した感動ドラマ。名優西田敏行さんが不器用だけどほんの少し、家族や社会の変化に対応することが嫌で、自分を変えることが苦手な中年男性を演じている。何もかも失って愛犬ハッピーと共に過ごした切なくも幸せだった旅を描いている。二人が最後にたどり着くひまわり畑は何と印象深かったことか。放置された車の中で男と飼い犬の白骨化した遺体が発見され、この遺体を葬るために市役所に努める男性が二人のたどった道を旅するうちに、彼らが交流した人々に話を聞いていくにつれ、この男性も自分の人生を見つめることになる。死体検案では男性は死後1年、犬は死後3か月。ということはこの犬は主人が亡くなっても約9か月近くそばにいて主人が目覚めるのを待っていたことになる。作者は星守る犬とは犬が星を物欲しげに見続けている姿から、手に入らないものを求めている人のことを表すと結んでいる。
 松尾芭蕉の奥の細道の中に次のような一節がある。「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり」この句のように月日のたつのは早いので人生はあっという間に終わりとなる。元気なうちにあちこちと旅をしたいと私は心底思う今日この頃である。