2024/11/29
8月中旬の日曜日の朝6時ごろ、庭にある花や植木の水やりをしていたら大きな欅の木の根元にセミの抜け殻がへばりついていた。形からしてアブラゼミの抜け殻と思えた。暦の上では8月7日が立秋なので今は立派な秋ということになる。正岡子規の「秋立つやほろりと落ちしセミの殻」を思い出す。SNSでセミの抜け殻を調べてみると抜け殻を見つけると縁起が良いとか殻が漢方薬になるとか記載がある。縁起が良いのならもう少し抜け殻を探そうと思いつき庭に植えている金木犀やもみじ、ハナミズキ、ドングリなど探してみた。すると、ドングリの木の下から1メートル50センチあたりに今度はニイニイゼミの抜け殻を見つけて私は嬉しくなりまだ寝ていた家内を起こして自慢げに報告した。
話は変わるがセミの抜け殻を「ウツセミ」ともいうらしい。漢字で書くと「空蝉」となる。意味はこの世に生きている人を意味する。私は源氏物語の空蝉、彼女は光源氏の逢瀬を始めて拒んだと言われています。光源氏が部屋に忍び込むと彼女の上着だけが部屋に残されていたことからも空蝉と呼ばれたとのことです。
ところで、皆さんはブルースト効果と言う言葉をご存じだろうか。フランスの小説家マルセル・ブルーストの長編小説「失われた時を求めて」の冒頭近くにマドレーヌ菓子の風味・匂いをきっかけに、かつて過ごした街全体が想起される。この現象をブルースト効果と言う。
実は私もつい最近これを体験した。ある新築のお宅を訪問した時の出来事である。和室に通されて座ると同時に畳の匂いつまりイ草の匂いを嗅いでしまった。すると、どうだ。なんと私の小学校3年生時代にタイムスリップした。
1957年頃は夏休みには母親の実家である尾道は栗原町で祖母と母、私の三人で生活をしていた。当時は銀行の社宅に住んでいて路面電車に乗って広島駅から蒸気機関車に乗りついで尾道駅まで母親と二人で旅をした。汽車は八本松を通過するときは勾配がきついので白い煙をまき散らせて走っていた。尾道駅からは尾道鉄道に乗り換えて宮ノ前駅まで乗車した。(尾道鉄道は60年前に廃止された。当時の宮ノ前駅はバス停宮ノ前に変わっている。)宮ノ前駅から祖母の家まで子供の足で10分はかかったと思う。途中にイ草を天日干ししているそばを通ると何となくバニラの匂いに似た甘い香りが漂ってきた。ここを通り抜けると栗原川にぶち当たる。祖母の家の敷地は広くて300坪はあると思う。母屋と離れそして大きな蔵、牛小屋その裏には竹藪があった。周りは土塀で囲まれており、その外は田んぼがあった。その前方には藁ぶき屋根の家があり、温かな光が漏れている。さらにその向こうにはカブトムシやクワガタを取りに行っていた黒い山が見える。何というノスタルジックな田園風景であろうか。
8月26日に3週間我が家にいた娘と孫二人は御影に帰っていった。部屋のあちこちに孫たちの痕跡が残っている。それを片付けていると68年前の祖母も同じ気持ちで片付けてくれていたのだろうかという思いがわいてきた。
ふと気になって、庭に出てセミの抜け殻を探したがもうそこにはなかった。
抜け殻は