井原市七日市町の内科・小児科・皮膚科 ほそや医院

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岡山県井原市七日市町102

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白昼夢 - ほそや医院

 令和7年2月1日で、ほそや医院は30周年を迎えた。思い起こせば平成7年1月17日の阪神大震災直後に開業した。診療のこと以外は何もわからないまま家内と二人三脚で医院経営をはじめることになった。スタッフの管理やレセプト請求を戸惑いながらもやってきた。それから30年があっという間に過ぎ去った。振り返れば私はいつも妻に助けられほそや医院を守ってきた。その30周年の節目に、2月11日から二人で熱海から伊豆方面を13日まで旅をしてきた。熱海梅園では小川の両岸に咲く見事な紅梅と白梅を見ながら坂道を登った。次に訪れたのは来宮神社。御神木である大楠は2100年以上の樹齢でパワースポットになっている。この周りを一廻りすると一年寿命が延び、しかも願い事がかなうというので、私たちは無言で24メートルある幹回りを一周した。つぎの訪問地はこの時期に咲く桜は珍しいがこの桜を見物するため糸川遊歩道を散策して、満開の熱海桜を楽しんだ。実は私はこの旅行で有名な河津桜を見に行く予定であったのだが天候の関係で今年は2月末が満開になる予定でこの時期はまだ咲いていないという情報を得たのであきらめていた。そんな中で熱海桜を見ることが出来たことは至福のひと時であった。 

 私はこれまで何度も東海道新幹線を利用して東京方面に行ったが富士山を見ることはまずなかったし、居眠りをしていて富士山のことなど眼中になかった。ところがこの度は井原を出発するときから何故か富士山を見ようと心に決めていた。私の思いが通じたのか、行きも帰りも雲一つない青空を突き破っている富士山を見ることが出来た。 

 3月に入るとこれまで寒かった冬が嘘のように暖かくなった。庭に出てみるとダンゴムシやテントウムシが枯れた芝生やナンテンの葉っぱの上でごそごそしている。そう言えば「バカの壁」で有名な養老孟司さんが昆虫はこの30年間で数が7割減少したと述べている。人間も少子化で人口が減少しているがロボットだけは増加している。我々の医療業界でもAIが取り入られるようになってきた。この調子でいけばそのうち我々医師がロボットに使われることになりかねない。現在の私の診療スタイルは兎に角患者さんと差し向かい、患者さんの希望をとことんきいてあげることに重点を置いた診療をしている。診察室の私の体を食いちぎりロボットが出てきて患者さんを診察するという実に「白昼夢の世界」が思い浮かんできた。 

 さて、もう一度養老孟司先生の話に戻ることにしよう。人間も昆虫も減少している現状を打開する方法があるであろうか。先生は「それがわかるほど人間は利口ではない」と日経新聞(2025年3月2日朝刊)に述べている。未来とは不確定なものを指すので、こうなると確定してしまえば、それは現在である。現代人はすべてを現在化しようとするので、不確定な未来だけが財産である若者は貧乏になる一方である。小中高生の自殺が年々増加するのはそうした世相と無関係ではないと先生は話されている。 

 ここで、最近私が感動した文章を紹介することにする。それは、「星の王子様」で知られるサン=テグジュペリの言葉「愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向をみつめることだ」(出典 人間の大地)私はこの言葉に憧憬を感じてしまった。