井原市七日市町の内科・小児科・皮膚科 ほそや医院

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スマートフォンの中のメロン

 9月中旬の日曜日の朝、私はいつものように6時前に起床して新聞を取りに庭に出た。するとひんやりとした爽籟を感じた。少し体を前後に動かしその後左右に振った。ウッドデッキの片隅に置いてあるテーブルにいつものごとく座り、大きく深呼吸し、テーブルの上に置いてあったスマートフォンを手に取り起動した。するとスマホの画面になんとコスモス畑の前でメロンを抱いた私の古い写真が画面に出ている。そうか、昨晩3歳の孫が携帯をいじっていたので偶然画像が出たのであろう。日付を見ると2014916日とある。

 メロンは純白のトイプードルで我々家族と17年間一緒に生活した賢くてかわいい女の子だった。2000年に我が家にやってきて家族として一緒に暮らしてきた愛犬だった。私が自宅の隣にある診療所から帰宅すると必ず玄関に出迎えてくれたものだ。メロンは日々の喧騒を忘れさせてくれたし、我々に僥倖をもたらせてくれたように思うことが多々あった。そんなメロンに異変が出たのは20157月に家内と伊勢神宮参拝から帰宅した夜に起きた。寝室で私達が寝ているときにメロンが足をバタバタしている音で目が覚めた。何とメロンが痙攣を起こしていたのだ。すぐに痙攣は収まったが私達夫婦は寝ていても気が気ではなかった。翌朝すぐに動物病院に連れて行くと犬のクッシング症候群と診断された。そう言えば、最近水をよく飲むようになっていたし脱毛もあった。何となくお腹も大きくなっていることもクッシング症候群の症状に会う。私は嘆いた。このメロンに現れている所見に全く気がついていなかった。脱毛は年のせいと思っていたしお腹が大きいことも気に留めていなかった。内服薬で2017年の2月ごろまでは元気だったが、次第に食べなくなり散歩するときも足がよろけるようになり抱いて散歩をしていた。そして、桜が咲くのを待たずに逝ってしまった。

 メロンがいなくなって1年余りが経過したころ、生きた犬の温もりが恋しくて、もう一度犬を飼ってみようかと心が動いたことがあった。しかし、20年余り生きる犬の面倒を私が責任もって見ることができるであろうかと自問すると答えはいつも「NO」だった。今では犬を飼う考えは全くなくなった。こう決心してからは道端で散歩している犬を見ても辛くなることはなくなった。

 私と同じ気持ちを歌人の水原紫苑さんが日経新聞の文化欄に愛犬のさくらが旅立った悲しみの記事(2021725)を読んだことがある。「飼い主を失った犬ほど哀れなものはないのだから、無責任に自分の寂しさだけで犬を飼おうとしてはいけないと思った。」と記載してあった。全く同感である。

 メロンは自宅の玄関前にクリスマスローズの花壇があるがその花壇の下に眠っている。その花壇の花に水やりをするときはいつも「メロン、しっかり水を飲めよ」と声をかける。
私のスマートフォンのギャラリーというアプリを開けばいつでもメロンに会うことはできる。が、ぬくもりは伝わってこない。私は自分が自由闊達に生きていくことをメロンは望んでいるだろうと思う。だから、家内二人で幾許も無い時間を楽しみながら過ごそうと思っている。そうすることが我々家族を愛してくれたメロンへの恩返しと思うから。