井原市七日市町の内科・小児科・皮膚科 ほそや医院

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影に驚く - ほそや医院

11月中旬に妻と一緒に紅葉を求めて京都に行ってきた。昨年は永観堂の紅葉を堪能したので今年は叡山ケーブルカーとロープウェイを利用して比叡山山頂に行きそこからの景色を楽しんだ。はるか向こうには琵琶湖と京都市街の街並みを見晴るかすことが出来た。展望台から見ると常緑樹の緑ともみじの赤がまるでパッチワークの作品を見るようだった。紅葉一つ見ても赤くなった葉っぱもあれば枯れかかった葉っぱそしてまだ紅葉していないものもあって観察すればするほど実に感慨深い。比叡山山頂を後にして八瀬比叡山口から叡山電車に乗って有名なもみじのトンネルを通過した。車内は満員で外国の方も乗客の半数以上を占めていたように思う。電車が紅葉のトンネルに差し掛かると車内でどよめきが起こった。私も興奮して窓外にくぎ付けになった。ライトアップした夜の紅葉のトンネルは今とは違った景色となることだろう。実際、私は35年前に京都国際会館で開催された内科学会に参加した後、一人でこの叡山電車に乗りもみじのライトアップされたトンネルを通過したことがある。その時は少しアルコールが入っていたことも手伝ってなんと「幽玄の美」の世界に迷い込んでしまったのである。ホテルに帰りベッドに入ってもなかなか寝付かれなかったことを思い出している自分がこの電車に乗っている。

京都から帰った私たちは3連休を広島のマンションで過ごした。いつものように私は遅い朝食をすませて例のごとく縮景園に散歩に出かけた。晴れ上がった園内を京橋川に沿って歩いていると突然足元で何か動くようなものを感じた。なんだろうと思いながら歩いているとまた同じように動く気配を感じた。立ち止まり足元を見ると私の影であった。「なんだ影か」と独り言ちた。桜の木の下にあるベンチに座って京橋川の川面を眺めているとある想念が浮かんできた。光が物体に当たると必ず影はできる。これは当たり前のことだ。光と影は表裏一体の関係である。影を扱った小説には村上春樹の「ノルウェイの森」やカフカの「変身」などは昔読んだことがある。いずれも人間の不条理をテーマにしている。
もう一つ「シーシュポスの神話」を例にとってみる。この話を皆さんは聞いたことがあると思うが重い石を山の頂上まで運び上げるが、頂上に達すると石は転げ落ちてしまい、また一からやり直しと言う、繰り返し終わりのない無意味な労働を強いられる話である。この物語も影をテーマにしているとわたしは考える。つまり、影とは不幸、不運、不平等や治ることのない病、出世の見込みのない会社員などなど記載すればきりがない。

わたしも76年生きてきたが光の当たるところばかりを歩いてきたわけではない。ノーベル化学賞を受賞した名古屋大学大学院有機化学科元教授野依先生の下で寝る暇も惜しんで実験していたが就職してから仕事に失望して物質を扱う有機化学の道から人間を扱う医学の道に30歳で踏み込んで以来、医師である私が存在している。40年医師を続けているといろんな患者に遭遇した。17歳で脳腫瘍になり医学部に入学して間もなく亡くなったA君、結婚して幸せの絶頂期に乳がんでこの世を去ったBさん、娘の結婚式を見ることなく死亡したすい臓がんのCさんと実に不条理な影である。

こんなことを思い出していたら川面の真ん中で銀色をした魚が急に空中に飛び跳ねた。